領主夫妻の肖像


ノヴァTOPへ




「レーニエ様!陛下からお届け物ですわ!」



その日、主が日課の村巡りから帰るのを待ちかね、サリアははね橋までレーニエを迎えに出た。いつもなら正面のホールで迎えに出るものを、館までの一本道をつま先立ちで透かして見ているサリアを見て、レーニエは怪訝そうに小首を傾げる。怪訝な気持ちを表す時の彼女の癖である。そう言えば今日あたり都から荷がとどくとセバストが言っていたような気がする。



――何かあったのだろうか?



「どうし・・・」

「とにかく早く中へ」

サリアは浮き浮きと踊るような足取りで、急いで馬から降りたレーニエの手を取った。

嬉しくて堪らぬような様子から悪い知らせではないと言う事は分かるが、何をそんなに興奮しているのだろう?レーニエはあまりにサリアが急かすので、ついてきてくれた若い兵士にリアム号を厩に入れてくれる様に頼むと、侍女について館内に入る。

「お戻りなさいませ」

正面の階段の下で待っていたセバストとオリイが、矢張りにこにこと主を迎えた。

「セバスト、オリイ、一体どうしたの?母上から何か?」

「まぁ、上でご覧になってくださいましな。陛下から素晴らしい贈り物がございますよ」

「母上から」

いったいなんだと言うのだろう。

「サリア、嬉しいのは分かるが、階段でレーニエ様を引っ張るのじゃないぞ」

「はぁ~い」

セバストの注意を聞き流し、サリアはどんどんレーニエの腕を取って二階の領主の居間に(いざな)った。

居間には大小様々な箱が並べられてあった。領主館には、時折母親である女王から届けられる様々な品物がとどく。今回もそう言う事なのだろうとレーニエは簡単に思っていたのだが、部屋に入るなりひときわ目立つのは、大きな椅子の背に掛けられた薔薇色の衣装で。諸道具に混じってなんだかそこだけ淡く輝いているようであった。

「これでございます!すばらしいでしょう?」

サリアは繊細なレースと花で飾られた美しいドレスを両手に抱えると、恭しくレーニエに差し出した。

「最高級の絹、レース!御覧なさいませな、この薔薇飾りの精密な事!これは都一の服飾職人の最高の仕事ですわ!他にもたくさんの衣装が届けられたのですが、これが一番素晴らしくて・・・」

「ああ、確かにきれいだけど・・・これが何か?」

レーニエはドレスそのものには余り興味がないのであっさりと応じる。サリアはそんなレーニエに大げさにため息をついて見せた。

「・・・そうおっしゃると思っていましたわ。でも、このお衣装に添えられた特別のお手紙がありますの。ご覧になってくださいませ」

「うん。これ?」

サリアが差し出した上等な書紙を受け取り、小刀で封を切るとレーニエはさらさらと読み下し―――下しながら次第に顔が引きつってゆく。

「これは・・・!母上、母上は・・・」

「ね?私と母さんにも同じ内容のお手紙がありましたのよ!すばらしいですわ!」

「は?一体何が素晴らしいんだ?・・・母上は事もあろうに、私にこの服を着て、ヨシュアと共に肖像画を描かせるようにと言ってきておられるのだ!」

信じられないと言う様にレーニエが首を振る。

「私はこんな服を着るのは嫌だ。そもそも母上は、一体どうしてご自分が絶対着られないような物を私に下さるのだ?」

女王自身は華美や贅沢を嫌う質実剛健な性格である。それにエルファラン王室は常に質素倹約を旨としているのではなかったか?

「それはまぁ、陛下の少女趣味と言うか・・・ご自分が着られないからこそ、レーニエ様に着て見せて欲しいと言うか・・・」

大人の人形遊びと言うか、せっかく美しく育った娘を飾り立てて皆に見せびらかしたい親心と言うか・・・サリアは女王の心情が手に取る様に分かるので、ここは何としてもレーニエを説得しなければと思った。

「陛下のお願いを叶えて差し上げなさいませな」

「嫌。絶対嫌。こんな窮屈そうな服を着るのも、肖像画を描かれるのも。早速母上に手紙を書いて丁重にお断りするから。サリア、書紙を出して」

レーニエは無情に言い放った。こういう所は似たもの親子である。

「・・・ですが、私によこされたお手紙では、都で新進気鋭の画家がもうすぐこちらに到着するからよろしくと(したた)められておりましてよ」

「な・・・そんな私に何の話も無く。第一ヨシュアだって嫌に違いない。そんな絵のモデルになるほどあの人はお暇じゃないもの。そうだ、ヨシュアがうまく断ってくれる」

レーニエは自信ありげに頷いた。





しかしその夜、館に戻ったファイザルは、レーニエの必死の訴えを穏やかに聞いていたが、やがて微笑と共に妻に向かって言った。

「俺は別に構いません。絵の対象になるくらい」

「ええ!?」

「ええ」

赤い瞳を見張った妻に彼は優しく頷く。

「そんな・・・あなたはきっと断られるだろうと思ってたのに・・・それに、そんなお暇はないでしょう?」

「そんな事も陛下はきっと分かっておられて、その上でおっしゃられているのですよ。寄こす画家もきっと、腕のいい信頼のおける人物なのだろうし、そんなに時間はとらないはずだ」

「だけど・・・だけど・・・」

レーニエは夫の袖口を摘まんで、何か他に断る理由は無いか考えているようだった。そんな妻を(なだ)めるようにファイザルは掌で柔らかな頬を包んだ。

「レナ・・・陛下はきっとお寂しいのだ。せっかく一人娘のあなたを取り戻したと思ったら、俺のような男にかっ攫われて。せめて絵姿なりとご覧になりたいのでしょう。ここは聞き分けよくなさい」

「う・・・そぉかな。でも・・・じゃぁ、こんなひらひらした面倒そうな服ではなくて、いつもの服を着て・・・」

レーニエはさも嫌そうにサリアが広げたままにしておいた薔薇色のドレスに目をやった。

「あはははは。それでは肖像画の格好がつかない。それに・・・俺だってその衣装を着たあなたを見てみたい」

ファイザルはちょんと額にキスをすると悪戯っ子のように笑った。この衣装を着たレーニエはさぞや花のように可愛らしいだろう。

「だけど・・・こんな色着た事がないし、私にはきっと似合わないよ」

レーニエは夫の言葉にうっすらと瞼を染めて俯く。

「あなたに似合わぬ色などあるものか。だが、その服を着ている間は誰にも会わないようにね。ああ・・・画家は仕方がないか・・・」

レースに縁取られた襟ぐりがやや深めなのに気がついた彼は、彼女の母の意図に思いが至り、ほんの少し眉を顰めてそう呟いた。







「あのご領主様・・・姿勢はもっと柔らかく、夢見る感じで・・・そうだ、お手に扇などお持ちになられては?」

「嫌」

若い新進画家、キリエは目が覚めるように美しい領主におずおずと提案してみるが、ぴしゃりと断られた。可愛い顔をして存外頑固なのかもしれないと、内心困惑しきっている。表情も新妻と言うよりは凛々しい少年騎兵の様で、美しいのに変わりはないことからその点については諦めもつくが、姿勢まで背筋を伸ばした夫に(なら)って直立不動なのには参る。

「・・・レナ」

傍らに立つ精悍な軍人は、取りなすように苦笑を浮かべてツンと横を向いた妻に声をかけた。実際彼が想像した以上にその服はレーニエによく似合っていた。ファイザルが自信満々な様子のサリアに居間に迎え入れられ、恥ずかしそうに立っているレーニエを見た時、常に彼女を見慣れている彼でさえ、ひゅと息を呑んだくらいなのだ。普段、少年公子のような白いシャツと黒いズボンを好んで身につけているだけに、その変わりように目を見張らせされる。大きく()れた胸元、鎖骨の淡い窪みに彼が贈った首飾りが収まっている様は、それを贈ったものに言いようのない満足を感じさせた。

なのに当の本人はその事に全く無頓着な様子でピンと背筋を伸ばす。

「あなたが立派な剣を持っているのに、何の役にも立たない扇なんて持ちたくない。こんな服を着ているだけで十分だ」

「そんな言葉を陛下が聞いたらお嘆きになる」

「母上には聞こえないからいいの」

まったくあの母にしてこの娘ありだ、ファイザルは情けなさそうに眉を下げている若い画家に諦めろと言う様に首を振り、その逞しい肩を竦めた。

彼は妻とは逆に殆ど色目のない軍服を着ていたが、それがまた素晴らしく似合っていた。階級を表す意匠を織り込んだ金糸の縫い取りがほとんど唯一の色味で、濃紺の地によく映える。手にした剣は常に愛用しているものではなく、飾りのついた細身のものである。

キリエはレーニエについては取りあえず諦め、今度は熟達した観察者の目でファイザルを見つめた。女王の身内だと言う、うら若い領主にもたまらなく絵心をそそられるが、夫たるこの戦士の体躯の見事さはどうだろう。

広い肩幅、逞しい胸板、なのにごつごつとした印象を相手に与えないのは、引き締まった首や腰、長い手足のせいだろうか?この男ならば、いつか古典的な戦装束をさせて描いて見たい。まさに軍神だろう・・・いや、いっそ何も身に付けず、生まれたままの姿で・・・そう、妖精のような銀髪の娘と絡めて・・・わぁお

「あなたがこんなにご立派なのに、私だけこんな服を着て、扇など持ってなよなよ突っ立ってるなんて嫌。あなたに相応しい対になりたい。絵師殿よろしく」

不満そうなレーニエの声で画家は妄想の縁から我に返った。もし今の考えを口にしていたら、彼の首は飛んでいたかも知れなかった。勿論、妻を溺愛している風の夫の剣によって。

「へ?あ~~~・・・ま、まぁ、いいでしょう。それじゃも少し寄り添って、レーニエ様。・・・後僅かで構いませんからお背中から力を抜かれて・・・はぁ、まぁそんな感じで。・・・では始めます。少しご辛抱なさって」

画家は首を竦めると、画架に立てた画布に向かって木炭を構えた。彼の説明によると、いくつか素描をした後は、もうそれほど手間は取らないらしい。彼は特に、それほど時間の取れないファイザルを主にしていくつか描くと、二時間もしないうちにその日の仕事を終えた。

「随分早かったねぇ。私も時々絵を描くのだけれど、もっと手間がとれる」

素描が終わるとさっさといつもの服に着替えたレーニエは、興味深そうに画家の仕事ぶりを眺めた。

「ええ、皆さまお忙しい方ばかりでございますし、手間が取れていては宮廷絵描きは務まりませんので。大体一度描けば覚えてしまいます」

「そうなの?すごい」

「後、二三枚角度を変えて描かせていただきます。それで完全に覚えられます。後はお衣装の細かい部分を写生致しますが、これは別に着ていただかなくてもようございますので」

「ふぅ~~ん。肖像画とは精密に観察しながら描くんだと思ってた」

「ははは。この辺りが微妙でございまして、正確な観察と描写が喜ばれるとは限りませんので」

「え?それはどういう意味?正確さは重要じゃないの?」

レーニエは説明を求めるように、身を乗り出した。

「静物画や植物画ならば、正確さは重要でありましょうが。人物画の場合は少し事情が変わって参りまして。たとえばご婦人ならば、実際よりややお若く、細く。殿方ならば、背を高く。年配の方ならば髪を濃く、と言う風に描く訳でございます。あ、でもこちらのご領主様、将軍様にはそんな配慮は全く必要ございませんが。ただ、表面の優れたところだけでなく、お二人の内側から輝くその・・・何と言いますか、魅力とか人間味と言うものを表現したいので、やっぱりそこに描き手の主観が入るかもしれませんね」

「そういうものなの?」

レーニエは画架にかかった自分たちの素描をつくづくと眺めた。自分はともかく、ファイザルはたいへんよく描けていると思う。

「ええ」

「成程・・・画家とは不思議なものだな・・・見えないものまで描こうとするか」

「ご領主様にはなかなか鋭くていらっしゃる」

画家は若く美しい領主の好奇心と洞察に感心しながら答えた。レーニエはまだ興味が尽きないようにじっと自分たちの素描を見つめている。

「あ~~~よく描けていると思うんだけどでも、やっぱりこう・・・なんだか後少し何かが足りないなぁ。私、ぼんやり突っ立ってるだけに見える」

「はぁ~」

夫妻の肖像画を描く場合、女性の方は花か扇、もしくはレースの布などを持つのだが、レーニエは何も持とうとしなかったので些か中途半端なポーズになってしまった事は確かに否めない。

「ちょっとこの上から描いてもいい?気に入らないなら後で消して構わないから」

そう言いながらレーニエは木炭を摘み上げた。本当ならやんわりとでも断るべきなのだろうが、キリエはこの娘領主が何をしようとしているのか知りたくて黙って頷いた。レーニエはありがとう、と呟くとピンと腕を伸ばして画架の前に立つ。

シャリシャリシャリ

荒い画布の上を木炭の走る音が鳴った。

「うん・・・ヨシュアがこんなに勇ましいのだから、私もだらりとしていないで、こう腕を曲げて指はこんな風に・・・そう、こんな感じで・・・どぉかな?画家殿」

「・・・」

レーニエが描き直した自分のポーズを見たキリエは、ピクリと眉を上げた。貴族の趣味にしてはなかなか達者な筆致で、線の勢いがいい。

「・・・ダメ?」

「ふ・・・構いませんよ。そう致しましょう。少し角度を直させていただきますが・・・。ふ・・・これは今まで見た事のないくらい面白い肖像画になる事でしょうよ」

芸術家の目になったキリエはにっと口角を上げて、自分の言葉に嬉しそうな様子の領主に頷いた。





それから三週間ほど経ったある宵に、キリエは将軍の執務室を訪れた。ファイザルは明日から暫く館には戻れない。明後日にはここでの仕事を終えたキリエは都に戻る事になっていたので、世話になった礼と、辞去の挨拶を述べようと思ったのだ。

「・・・?」

ノックの音に中からは返事がない。先ほど家礼から将軍は居間に一人でいると教えられたばかりなのに。画家は無礼かとも思ったが、そっと重い扉を開けて遠慮がちに首を突き出した。

「―――!」

部屋の中央に将軍はいた。

長身を大きな長椅子に横たえて。

シャツの胸元を緩めた上半身をゆったりと肘掛けに(もた)せかけ、片足を床に置いている。もう片方は格好良く曲げて座面に投げ出している。

その上に覆い被さるように眠っているのは彼の妻たる領主だった。今は男装していない。簡単な無地の服を着て夫の広い胸に頬を寄せて丸まっている。



若い画家は絶句する。何て無作法な事をしてしまったんだ、キリエは(おのの)いた眼を将軍に向けた。しかし――高名な戦士は特に怒っているようには見えない。

ついと、視線を流した彼は指を唇の前に立てて、静かにするように命じ、慌てて出て行こうとしたキリエを封じた。

「済まんな、こんな恰好で失礼する。ご領主は先ほど入ってこられて少し話している間に眠ってしまわれたんだ。・・・何か御用かな?」

彼の(いた)わる様な声は低く、眠っている妻を起こさぬ気遣いがありありと見てとれる。大きな掌で密やかに輝く銀髪をゆっくり撫でている様は、まるで仔猫を愛撫しているようにも見えた。

「お気になさらず・・・しかし、よろしいので?」

夫の胸に頬を寄せてあどけなく眠る娘の唇はやや腫れている。衣服こそ乱れていないものの、髪の陰になっている喉元にもうっすらと淡い痣があるようだ。普通の人間なら気がつかないような僅かな変化も、画家である彼の観察眼は鋭く捉える事が出来る。一体どんな話しをしていたらこうなるんだ?と言う突っ込みを呑み込み、キリエは問いかけた。正直な問いであった。例え一方が眠っているとはいえ、夫婦の睦み合いを他人に見せつけるとはどういう神経だろうか?

「構わん。あなたにはどうせ陛下に色々と報告義務があるのだろう?ありのままを伝えるがいい」

「は・・・」

図星である。矢張り気付かれていたか。

「明日発たれるとか」

「は・・・はい、左様で。お陰さまで、よい仕事をさせて頂き御礼申し上げます」

「ふ・・・俺も先ほど見せて貰ったが中々良く描けている。あれを見たら陛下はさぞお喜びになるだろう」

喋っている間も妻の頭部を撫でる手を止めようとはしない。

「畏れおおうございます。この後、都に戻りまして細部の仕上げをする所存にございますれば」

「完成を見れないのは残念だと、この方もおっしゃっていた。だが、来年の春には陛下のお居間で見られるのだろうな」

「はい。必ずやご満足頂けるような作品にいたします。私の代表作となるような・・・」

画家は自信ありげに言った。彼の武器は絵筆なのである。

「ふむ」

「つきましてはたいへん失礼かとは存じますが、お願いがございます。」

「何だ」

「是非とも今のお二人を写生させていただきたく」

「・・・」

意外な問いに軍人は僅かに眉を上げた。改めて自分たちに視線を注ぐ。寛いだ衣服で長椅子に横たわっている自分。足の間に挟まって腕の中で眠りこけている妻。

先ほどは少し悪戯が過ぎたか。又暫くこうしてゆっくりできないのだからと、こっそり部屋に入ってきて躊躇いがちに甘えるレーニエに自分を抑えられなかった。恥ずかしがる様子が余りに煽情的で、つい瞳が潤むまで愛撫を加えてしまった。今夜はまだ終わらないと言うのに。

レーニエは眠っている。どうせ後で起こさなければならないが、まだいいだろう。

ファイザルは、画家の方から自分たちがどう見えるか確かめ、やがて頷いた。

「・・・・・・いいだろう。この方が目を覚まさぬ内にならな。ただし、その素描は陛下の他には見せてはならん」

可愛くてならないように腕の中の妻を見下ろすと、ファイザルは許可を下す。画家は既に画帳を取りだして写生の姿勢になっている。

「勿論でございます・・・では」

「ああ」

シャッシャッシャッ

木炭ではない、画用の筆記具の小気味いい音が鳴る。キリエはものの十分も経たずに作業を終えた。

「・・・終わりです。よいものを見せて頂きました」

そう言って画帳を裏返して、ファイザルに向ける。彼はぴくっと口角を上げた。

「・・・よく描けている。陛下のしたり顔が目に浮かぶようだ。将軍は妻にお甘いのう・・・とかなんとか」

「その通りではございませぬのか」

画材を収納しながらキリエは笑う。この男と秘密を共有した気分だった。

「その通りだとも」

しれっとしてファイザルは答えた。

レーニエは何も気づかず微笑みながら眠っていた。







◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇







「・・・で、このポーズと言う訳ですか?キリエ殿」

エルファラン国女王アンゼリカ・ユールは彼女の夫の肖像の隣に掛けられた、新しい絵をつくづくと見入った後、画家を振り返って言った。

「はぁ。ご領主様の熱心なお申し出でこうなってしまいました」

高価な額の中に収まった二人の人物。精悍な表情の立派な軍人と美しい若い妻。しかし、どういう訳か妻の方も拳を握り、夫と同じように勇ましい感じに見える。



――成程のぅ・・・あの子の心中が手にとるようだわ



女王はこれ以上無いほど(まなじり)を下げて、きりりとした視線の愛娘に微笑む。

「二人とも元気なようですね」

「はい。およそ一月ほどの滞在の間にお二人が如何に愛し合われているか、そして召使や領民たちにいかに慕われているかこの上なくよく分かりました」

画家はそう言って描きためた素描を女王に差し出す。そこには北の国の美しい自然や、素朴な村人たちの働く様子、無邪気に遊ぶ子どもたちが数多くえがかれていた。勿論、若い領主やその夫の何気ない日常の仕草も。それらはキリエの卓越した表現力と構成力によって生き生きと、まるで直ぐにも動きだすように見える。女王は楽しげに項を繰っている。

「ほほほ・・・仲の良い事」

「左様で・・・時々は目のやり場に困るほどで」

「あの子は実に楽しそうですね・・・あら?・・・まぁ、これはこれは」

女王がふと手を止めたのは、キリエが最後に行った素描で。



「いかがでございます?」

「ふふふ。婿殿もなかなかやるではないですか・・・・・・お固いばかりではないようでなによりです」

女王は自らの贈り物の答えを正確に受け取り、一層上機嫌に笑った。











◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇





黒(正確には濃いセピア)背景にしたので驚かれたかもしれませんが、これは絵を引き立たせるためであります。
レナちゃんのガッツポーズにはこういう訳があったのです。因みに身長差はキリエによって補正されています。余りに差があると構図的に変になるからですって。
それにしても、もう一つの肖像画もさぞや甘い事でしょうよん。よろしければ一言、是非~~。


Powered by NINJA TOOLS

web拍手











ノヴァTOPへ
Copyright (c) All rights reserved.